公的年金制度の完全ガイド:仕組みと将来設計のポイント
今回は多くの方が気になる「公的年金制度」について、基本から応用まで徹底解説します。老後の生活設計に欠かせない年金の仕組みをしっかり理解して、将来に備えましょう。
公的年金制度とは?基本の「き」
公的年金制度は、高齢者や障害者、遺族の生活を支えるために国が運営する社会保障制度です。日本では「国民皆年金」という考え方のもと、国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が何らかの年金制度に加入することが法律で義務付けられています。
公的年金から受け取れる給付には主に3種類あります:
- 老齢年金:高齢になったときに受け取る年金
- 障害年金:病気やケガで障害が残ったときに受け取る年金
- 遺族年金:年金加入者が亡くなったとき、その遺族が受け取る年金
💡 ポイント:老齢年金、障害年金、遺族年金の詳細については、別記事で解説します。
年金制度は「世代間扶養」という考え方で成り立っています。これは現役世代が納める保険料が、現在の高齢者の年金給付に充てられるという仕組みです。自分が納めた保険料が積み立てられて将来受け取るわけではない点が重要です。
年金制度の2階建て構造
日本の公的年金制度は「2階建て」の構造になっています。
1階部分:基礎年金(国民年金)
すべての人が加入する基本的な年金制度です。国民年金とも呼ばれ、一定の条件を満たすと「老齢基礎年金」として65歳から受給できます。2024年度の満額(40年間保険料を納めた場合)は年間約78万円です。
2025年度の公的年金支給額は、前年度比で1.9%の増加が予定されています。これは名目手取り賃金変動率が2.3%であることから、マクロ経済スライドによる調整分0.4%を差し引いた結果です。 しかし、物価上昇率を考慮すると、実質的な年金の価値は目減りする可能性があります。具体的には 国民年金:月額6万9,308円(前年度比1,308円増)
2階部分:厚生年金
会社員や公務員など、被用者(雇用されている人)が加入する年金制度です。基礎年金に上乗せして給付されるため、会社員などは「2階建て」の年金を受け取ることになります。厚生年金の額は在職中の給与や加入期間によって変わります。
厚生年金:モデル世帯(平均的な収入で40年間働いた夫と専業主婦の妻)で月額23万2,784円(前年度比4,412円増)
日本の年金制度
被保険者区分
第1号被保険者
自営業者、学生など
第2号被保険者
会社員、公務員など
第3号被保険者
第2号被保険者の被扶養配偶者
加入する年金制度
第1号被保険者:国民年金(1階部分)にのみ加入。保険料は定額を自分で納付。
第2号被保険者:国民年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)の両方に加入。保険料は給与に比例して事業主と折半で納付。
第3号被保険者:国民年金(1階部分)にのみ加入。保険料負担なし(第2号被保険者の加入する制度全体で負担)。
誰がどの年金に加入する?被保険者の種類
年金制度の加入者(被保険者)は、職業などによって3種類に分類されます。
第1号被保険者
- 自営業者、農業・漁業従事者、フリーランス、学生など
- 20歳以上60歳未満の方で、第2号・第3号被保険者に該当しない人
- 加入する制度:国民年金(基礎年金)のみ
- 保険料:定額(月額16,520円、2024年度)を自分で納付
第2号被保険者
- 会社員、公務員など
- 加入する制度:国民年金(基礎年金)+厚生年金
- 保険料:給与に比例した額を事業主と折半で負担(給与から天引き)
第3号被保険者
- 第2号被保険者に扶養されている配偶者(年収130万円未満)
- 加入する制度:国民年金(基礎年金)
- 保険料:個人での納付は不要(配偶者の加入する制度が負担)
💡 注意点:離婚や配偶者の退職などで第3号被保険者の資格を失った場合は、すみやかに手続きが必要です。放置すると将来の年金額が減る可能性があります。
年金保険料はいくら?納付方法は?
国民年金(第1号被保険者)の保険料
- 月額:16,520円(2024年度)
- 納付方法:
- 納付書による現金納付(銀行、郵便局、コンビニなど)
- 口座振替
- クレジットカード払い
- 電子決済(PayPay、LINE Payなど)
- 前納割引:6ヶ月や1年分などをまとめて前払いすると割引あり
厚生年金(第2号被保険者)の保険料
- 保険料率:標準報酬月額の18.3%(2024年度)
- 負担:労使折半(労働者負担は9.15%)
- 納付方法:給料から天引き(源泉徴収)
第3号被保険者の保険料
個人での納付は不要です。配偶者が加入する年金制度から国民年金に拠出されます。
年金はいくらもらえる?受給額の計算方法
老齢基礎年金(国民年金)の計算方法
老齢基礎年金の満額(40年間保険料を納めた場合)は、2024年度で年額779,300円です。実際の受給額は以下の式で計算されます。
老齢基礎年金額 = 779,300円 × (保険料納付済期間(月) + 保険料免除期間(月)×免除率) ÷ 480
💡 例:35年間(420ヶ月)保険料を納めた場合
779,300円 × 420 ÷ 480 = 681,887円(年額)
老齢厚生年金の計算方法
老齢厚生年金は以下の要素で計算されます:
- 報酬比例部分:在職中の給与(標準報酬)と加入期間に応じて計算
- 経過的加算:2003年の制度改正以前の期間がある人に加算される部分
計算式は複雑ですが、おおよそ「加入期間が長い」「給与が高い」ほど年金額は多くなります。
🔍 チェック:「ねんきんネット」に登録すると、将来の年金見込額をシミュレーションできます。
年金の受給開始年齢と繰上げ・繰下げ制度
標準的な受給開始年齢
- 老齢基礎年金:65歳
- 老齢厚生年金:65歳
- ただし、1961年4月1日以前に生まれた男性、1966年4月1日以前に生まれた女性は特別支給の老齢厚生年金があります(段階的に廃止中)
繰上げ受給
60歳から64歳の間で早めに受給を開始できる制度です。ただし、繰り上げた月数に応じて年金額が減額されます。
減額率:2022年4月からは、1ヶ月あたり0.4%減額
(例:60歳で受給開始すると、65歳時点と比べて24%減額)
⚠️ 注意:一度繰上げ受給を選択すると、減額は生涯続きます。また、繰上げ期間中に障害年金を受けられなくなるなどのデメリットもあります。
繰下げ受給
66歳以降に受給を開始することで、年金額を増額できる制度です。
増額率:1ヶ月あたり0.7%増額
(例:70歳で受給開始すると、65歳時点と比べて42%増額)
💡 ポイント:長生きする自信がある方や、65歳以降も十分な収入がある方は、繰下げ受給を検討する価値があります。
年金と働き方の関係:在職老齢年金制度
年金受給年齢に達した後も働き続ける場合、収入が一定額を超えると年金が一部または全部支給停止される「在職老齢年金制度」があります。
60〜64歳の場合(特別支給の老齢厚生年金を受給している場合)
賃金と年金の合計額が月28万円を超えると、超えた額の半分が年金から差し引かれます。
65歳以上の場合
賃金と年金の合計額が月47万円を超えると、超えた額の半分が年金から差し引かれます。
💡 ポイント:2022年4月から在職老齢年金制度が見直され、65歳以上の支給停止基準額が引き上げられました。これにより、多くの高齢者が働きながらより多くの年金を受け取れるようになっています。
国民年金保険料の免除・猶予制度
経済的な理由で国民年金保険料を納付することが困難な場合、以下の制度を利用できます。
保険料免除制度
本人・配偶者・世帯主の所得が一定以下の場合、申請により保険料の全額または一部(4分の3、半額、4分の1)が免除されます。
納付猶予制度
50歳未満の方で、本人・配偶者の所得が一定以下の場合、申請により保険料の納付が猶予されます。
学生納付特例制度
学生で本人の所得が一定以下の場合、在学中の保険料納付が猶予されます。
⚠️ 重要:これらの制度を利用した期間は、将来の年金額を計算する際に一定の割合で反映されます。また、免除・猶予された保険料は、10年以内であれば後から納付(追納)することも可能です。
年金の未納問題と対策
未納がもたらす影響
- 老齢年金の減額:保険料未納期間は将来の年金額計算に反映されません
- 受給資格の問題:保険料納付期間が10年に満たないと、老齢年金を受け取れません
- 障害年金・遺族年金の制限:未納状態で障害や死亡が発生した場合、給付を受けられない可能性があります
未納対策
- 免除・猶予制度の活用:経済的に納付が困難な場合は積極的に申請しましょう
- 追納の検討:経済状況が改善したら、過去の免除・猶予期間分を追納することを検討しましょう
- 納付方法の工夫:口座振替やクレジットカード払いなど、忘れにくい納付方法を選びましょう
年金記録の確認方法
ねんきん定期便
年金加入者には、誕生月に「ねんきん定期便」が日本年金機構から送付されます。これには保険料納付状況や将来の年金見込額などが記載されています。
ねんきんネット
オンラインで24時間365日、自分の年金記録を確認できるサービスです。将来の年金見込額のシミュレーションも可能です。
年金事務所での窓口相談
直接年金事務所を訪問して、年金記録の確認や相談をすることもできます。
💡 アドバイス:年金記録は定期的に確認し、誤りがあれば早めに訂正請求することが大切です。特に転職や結婚などライフイベントがあった際は要注意です。
マクロ経済スライドとは?年金額の調整の仕組み
マクロ経済スライドは、少子高齢化が進む中で年金制度を持続可能にするための仕組みです。
仕組み
本来、年金額は賃金や物価の上昇に合わせて増額されますが、マクロ経済スライドでは以下の要素を考慮して年金額を調整します:
- 現役世代の減少率:働く人が減ると、調整率が大きくなります
- 平均余命の伸び:長生きする人が増えると、調整率が大きくなります
実質的には、賃金や物価が上昇しても、年金額の増加を抑制する効果があります。
💡 ポイント:マクロ経済スライドは「年金の目減り」と言われることもありますが、制度の持続可能性を高めるための重要な仕組みです。
年金制度の最新動向と今後の見通し
最近の制度改正
- 在職老齢年金制度の見直し(2022年4月):65歳以上の支給停止基準額の引き上げ
- 繰上げ受給の減額率見直し(2022年4月):0.5%から0.4%に緩和
- 厚生年金の適用拡大:対象となる企業規模が段階的に引き下げられています
今後の見通し
- 支給開始年齢の引き上げ議論:70歳への引き上げなどが検討されています
- 保険料の見直し:将来的には保険料率の引き上げも議論される可能性があります
- 制度の一元化:現在の複数の年金制度を一本化する議論も継続中です
🔍 チェック:年金制度は定期的に見直されるため、最新情報をチェックすることが重要です。
年金以外の老後資金準備の重要性
公的年金だけでは不十分?
標準的な世帯の老後の生活費は、夫婦2人で月に約20〜25万円と言われています。一方、平均的な年金受給額は、夫婦2人(夫が会社員、妻が専業主婦の場合)でも月20万円前後であり、生活費を賄うには十分とは言えない場合があります。
老後資金の準備方法
- 企業年金・iDeCo(個人型確定拠出年金):税制優遇を活用した年金積立
- NISA(少額投資非課税制度):長期的な資産形成に有効
- 民間の保険商品:個人年金保険などの活用
- 不動産投資:家賃収入による安定した収入源の確保
- 継続的な就労:年金受給年齢以降も働き続けることでの収入確保
💡 アドバイス:「人生100年時代」と言われる今日、公的年金だけに頼らず、複数の収入源を確保することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 年金はもらえなくなるのでしょうか?
A: 年金制度そのものがなくなる可能性は低いですが、少子高齢化の影響で給付水準が徐々に下がる可能性はあります。ただし、国は5年ごとに財政検証を行い、制度の持続可能性を高めるための対策を講じています。
Q2: 海外に住んでいる間も年金に加入する必要がありますか?
A: 海外に住民票を移す場合は、国民年金の任意加入制度を利用できます。加入しない場合はその期間の保険料納付がなく、将来の年金額に影響します。
Q3: 年金を受け取るには最低何年間の加入が必要ですか?
A: 老齢年金を受け取るには、保険料納付済期間と免除期間を合わせて10年以上必要です。2017年8月以前は25年でしたが、法改正により短縮されました。
Q4: 離婚した場合、配偶者の年金はどうなりますか?
A: 「年金分割制度」により、婚姻期間中の厚生年金の支払記録を夫婦間で分割することができます。離婚時に合意または裁判所の決定に基づいて分割割合を決定します。
Q5: 公的年金にかかる税金はどうなっていますか?
A: 公的年金は「雑所得」として課税されますが、一定額までは非課税となる「公的年金等控除」があります。年金収入が少ない場合は納税が不要な場合もあります。
まとめ:公的年金を理解して老後に備える
公的年金制度は私たちの老後の生活を支える重要な社会保障制度です。しかし、少子高齢化や長寿化の影響で、年金だけで十分な老後生活を送ることが難しくなっているのも事実です。
年金制度の基本を理解し、自分の年金記録をしっかり管理することはもちろん、iDeCoやNISAなどを活用した私的年金の準備も視野に入れて、バランスの取れた老後資金計画を立てることが大切です。
「備えあれば憂いなし」という言葉通り、早めの準備が安心につながります。ぜひこの記事を参考に、ご自身の将来設計を考えてみてください。
※本記事は情報提供を目的としており、個別の状況については年金事務所や専門家にご相談ください。また、記事は2024年3月時点の情報に基づいています。制度は変更される可能性がありますので、最新情報をご確認ください。